(6)特許の役割

『ある知財マンの思い』

(6)特許の役割

 模倣とコピー

 最近のニュースである。中国が新幹線を開発して特許を出願した。外国にも出願するという。これはテレビや新聞で報道されて物議をかもした。テレビでは中国の新幹線の外観が日本の新幹線と酷似しており、日本の技術の模倣ではないかという報道である。もう少しニュースの本音をいえば、模倣技術であるにもかかわらず自分の技術だといって特許まで出すとはどういうことだ。ということかもしれない。
 これを見た多くの日本人は、中国は他人のものを簡単に模倣する国であり、アニメの主人公のコピーから始まり、ついにはハイテクのコピーにまで来たかと思うであろう。確かに中国のコピーは度を過ぎており、知的財産の順守が各国から求められているのである。
 しかし、この事実を少し違う目で見てみたい。
 今私はコピーという言葉と模倣という言葉を使った。コピーというのは、第三者の著作物または発明をそのまま使うことであり、模倣というのはそれらに少し知恵を加えて、少し変えて使用することである。コピーは著作権という側面から言えば、著作権侵害であり、特許という面からいえば特許権侵害である。これらは違法行為である。法律に訴えれば、侵害している者は差し止められたり、損害賠償を請求されたりする。
 しかし模倣は違う。模倣は著作権侵害あるいは特許権侵害の可能性なしとしないが、侵害しないかもしれない。ケースバイケースである。従って法律的には模倣を一律違法行為であるとは言えないのである。

 模倣なのかコピーなのか

 このようなことを前提として、もう一度新幹線の特許出願について考えてみる。中国の特許出願行為ははたして模倣なのかコピーなのか、どちらであろうか。
もし仮にコピーであるとすると、一般論としては、特許法のもとでは新しいものではない、すなわち新規性がないとして特許にはならない。このような特許を日本やアメリカにいくら出願したとしてもお金の無駄というものである。
 そうではなくて、模倣であるとしたらどうだろうか。模倣であるから特許にならないということはない。模倣であるということは、コピーではないから、他者の発明品と同一ではなく、どこか変えてあるということである。その変えられている部分が新しい発明であれば特許になる可能性が有る。
ということからすると、中国が新幹線の特許を外国にまで出願するそうだ、という事実のどこに問題が有るかということを整理すると、

  • (1) 全くのコピー技術を出願しようとしているから問題だ。
  • (2) 模倣したものを出願しようとしているから問題だ。

ということになる。おそらく(1)については出願した本人が損をするだけなので大きな問題ではない。しかし(2)のような場合だと、日本がせっかく時間とお金をかけて作った発明が簡単にまねされてしまったということになり、中国はけしからんというところであろう。もちろんニュースを読んでいる人も、ニュースを聞いている人も知財の専門家ではないので、(1)と(2)に分けて考えるというようなことはしないだろうが、感覚的にはこのように思うのではなかろうか。

模倣されるということ

 では模倣ということに対して皆腹を立てているとしたら、これについて知財の専門家としてはどのように考えたらよいのだろうか。他人の発明を改良するような発明をするということは、技術の発展につながり好ましいことである、という考え方もあるかもしれない。
 最近テレビのCMを見ていたら、ある会社が新しい商品を出して間もなく、ほとんど同じ商品を他の会社が宣伝を開始するということがあった。これはまさに模倣であるが、一体特許はどうなっているのかと思ってしまう。最初に商品を出した側の特許のことである。おそらくあたらしい製品である以上は、特許も出願されていることだろう。第三者は先行企業の特許を無視して製品を世に出すことは考えにくいので、十分特許調査をしているはずである。ということは後発製品を出した側は、一応は先行企業の特許を侵害しないという自信をもって製品を出しているはずである。ということは、後発企業は先発企業の発明を模倣して、先発企業のアイデアだけを使って侵害しない模倣技術を短期間に開発したということになる。この後発企業の製品は、新規な技術を使った製品であると宣伝されるのである。
 要するに、中国の新幹線の問題以前に、模倣という問題は日本のような先進国といわれる国でも非常に多く起こっているのである。

模倣と特許の排他性

 私が入社してしばらくして感じた特許の問題点は、実はこの問題と関係が深いのである。生れてくる発明を文章化してどんどん出願するということを日本はやってきた。しかし特許を出願することによっていったい何が起きたのか。いいかえれば特許を出願することによって何が良かったということははっきりしない。これが特許の業務についての私の疑問であった。
 特許を出願しているのに後発の企業に簡単に模倣されてしまうということは、模倣されてしまうような特許しか出願できていなかったのではないかということを認識しなければならないのである。たとえ模倣されても、特許権としては後発の技術を含んでおり、後発企業は先発企業の実施許諾を得なければ実施できないというのであればよい。しかし先発企業は特許の開示はできたが、特許に排他力をつけることができなかったのである。

特許の役割

 第三者が容易に模倣できないような特許網を構築するということが特許の役割なのである。もしそういうことができれば、自社が開発した発明品の模倣技術がでてくることを抑えることができる。少なくともすぐに同じようなものが出てきてしまうということは避けることができる。それによって他社から製品のシェア―を奪われることもなく、製品の値下げ競争も避けることができる。その結果は事業利益を今まで以上に増やすことができるのである。特許の排他性を使って事業利益を増大させる。これこそが特許の役割であり、そのような特許の役割を発揮させる方針が特許戦略ではないだろうか。
 第三者が容易に模倣できない特許網の構築は研究者と知財担当者のあいだの出願実務の話ではうまくいかない。もう少しダイナミックな議論が必要なのである。特許は事業利益をあげることに貢献できるということであるから、事業を推進している責任者にも理解してもらい、事業部門―研究部門―知財部門(三位一体)の議論が必要なのである。
 このような議論を通じて、競合他社に勝つためにはどういう特許網をはればようのかというイメージを具体化する必要がある。そのイメージに沿った特許を研究者と知財担当者が議論して出願していく構造を取れば、特許出願と事業というものがつながってくるのである。

 
 特許業務を担当している方々の多くが、私が持った疑問と同じような疑問を持っている。しかしそれを簡単には解決できないでいるというのが現状である。
 特許の役割、言い換えれば特許を取って何を期待しようとしているのかということを三位一体で議論してほしい。そうすれば特許を出願する目的を三位一体で共有することができる。そして特許業務の意味は出願時から明確になり、仕事の結果は10年先にならないとわからないということは無くなるのではないかと確信するのである。

 六か月にわたり紙面を頂き、拙文を掲載して頂いたサンビジネスの皆様には深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

長谷川曉司氏 プロフィール

1949年 愛知県生まれ。
1972年 大阪大学工学部応用化学科卒業。
1974年 東京工業大学大学院化学工学修士課程修了。同年、三菱化成(現・三菱化学)入社。
1977年 弁理士資格取得。
1986~91年 三菱化成・米国法人駐在員としてニューヨークに駐在。
2003年 知的財産部長に就任、特許戦略の考え方および方法論を確立して実行する。
2009年6月 三菱化学退職
2009年9月 長谷川知財戦略コンサルティング設立

経営の中での【事業に勝つための特許戦略とは何か】を誰にでもわかりやすく解説、実践することを旨とする。

『ある知財マンの思い』

『御社の特許戦略がダメな理由』(中経出版)の著者である、長谷川曉司氏のコラムを連載します。
長谷川氏とは縁あって出版のお手伝いをさせていただき、DTPは弊社デザイン・制作部で行いました。長谷川氏は、知的財産コンサルタントとして、講演など、幅広く活躍されていました。

長谷川曉司氏は、平成23 年に逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

お問い合わせ・ご相談

お問い合わせ・ご相談の際には、下のボタンよりお問い合わせフォームへお進みください。

入力フォームからのお問い合わせはここをクリック

ページの先頭へ戻る